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「失礼ですが、貴女には婚約者がいたようで」
私は資料の内容を思いだし、ティーシア嬢に質問する。
彼女には、幼少の頃から決められた人がいた。しかし、その彼は今は行方不明。
ヴァンパイアになってしまったと言う説が有力だ。
「ラズ・M・ガランナルダ氏の事ですね。えぇ、五年ほど前に、行方が分からなくなりました」
「ヴァンパイアに襲われたと、お聞きしてますが」
僕がそう言うと、彼女はゆっくりと息を吐いた。
「そうですね。彼の家も、ヴァンパイアの襲撃を受けました。大体の方の死体は見つかりましたが、彼を含めた数人の死体は見つかっていません」
ヴァンパイアに教われた全ての人間がヴァンパイアになるというわけではない。
牙から注入された毒と体が反応を起こし、ヴァンパイアになる。過剰反応、または何の反応を示さない場合は、約一日で死亡する。
これは教われた人々を検証したレポートと、教会の暗い実験の成果で判明した事だ。
死体が見つかっていないということは、則ち、生きている又はヴァンパイアになったという事だ。
「もしもの話です。ガランナルダ氏がヴァンパイアとなって貴女の目の前に現れた場合、その時はどうなさいますか?」
これは実際に有り得る例え話だ。
そうなった場合、その時は人間として当然の判断が下せるか。愛した者を、殺す事が出来るのか。
ティーシア嬢はゆっくりと目を伏せ、暫く言葉を発しなかった。
そして口から紡がれたのは、この街を統べる者として当然の、冷たい理性だった。
「私と彼の婚約は、私達が産まれる前から決められた事でした。同病哀れみはしましたが、はっきりとした愛情を持つような関係になると思われますか?」
「……」
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