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今度は僕が黙る番になった。
政略結婚なんて、上流階級の人々には珍しくない事だ。愛情も無い夫婦関係も、よくある事だった。
それに当て嵌めると彼女は結婚相手であるガランナルダ氏を愛していなかったという事になる。
もしかしたら、憎んでいたのかも知れない。
自分の自由な恋愛、自由な人生を踏みにじられたと感じる人も居ると言う。
僕が思考に意識を飛ばしていると、不意に派手な音がした。
驚いて前を見ると、先程まで座っていたティーシア嬢と椅子が床に倒れていた。
部屋に居たメイドと執事達が慌てて彼女に駆け寄り、ガラス細工を扱うように優しく抱き上げて部屋を去って行った。
僕は呆然とその姿を目で追うだけだった。
「申し訳ございません、スリンス様。ティーシア様は少々体調を崩しておりまして」
かけられた言葉に、私は漸く我を取り戻した。
彼女が病人というのは、本当のようだ。あまりよくは見えなかったが、赤くなった頬と荒い息は、発熱をしている事を知らせていた。
それほどまでに、彼女は無理をしていたのだろか。
「いえ、お気になさらず。また、日を改めて参ります。お大事になさってください」
「お気遣い、ありがとうございます」
そうしてヴォルフライン家を後にした。
蝋人形のように冷たく妖しい少女は、街を守ると言う重荷を課せられた普通の女の子なんだと、その日実感した。
彼女の守ろうとしているこの街を、僕も全力で守らなくては。
強く優しく、そして脆い少女が愛した街を、エクソシストの名にかけて。
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