黄昏月の嗤い

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爪痕が残るほど少女の体を抱きしめ、簡単に折れてしまいそうな首のすぐ傍に牙を立てる。 恍惚が、始まる。 「--------ぁ、か、っは、----、----っ」 視界に光が飛び、真っ赤に染まる。 満たされるは、飢えと、快楽と、恍惚。 なにもかもを忘れさせるような、麻薬のような悦楽。 「あ、はは、-----っふ、ぐ、ヒはっ!」 薫るは眩暈がするほどの甘い血液。 脳の奥深く、本能を刺激する。 白が飛び、赤が塗り潰す視界。 震える身体は、恐怖か、興奮か。 眩暈は世界を変え、すべてを解き放つ。 すべての恍惚は、快楽のために。 やがて終わる、一瞬の夢のために。 「は、ひ……っ、ふは、ぁ」 ずるり、と朱く濡れた牙が抜かれる。 まだ塞がらない傷口から、色鮮やかな赤が流れる。ラズはそれを舌で掬い、傷口を労るように嘗める。 ぴちゃり、ぴちゃりと部屋に水音が響く。 傷口は異常なまでの速度で回復し、跡形もなく綺麗に消えていた。やがてその水音も、途絶えた。 糸の切れたマリオネットの如く、ティアはベッドに横たわったまま動かなかった。 血の気のない顔は、まるで死人。薄く開かれた口から漏れるか細い呼吸が、彼女が生きていることを知らせる。 ラズはサイドテーブルにある呼び鈴を鳴らす。暫くするとタオルや着替えを持ったメイド達が、手慣れた様子でティアの体を清める。 その様子を横目に、ラズはドアから部屋を出た。 .
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