黄昏月の嗤い

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廊下には初老の男が待っていた。 眼鏡をかけ、白衣を羽織っているその男は、この家の(今となってはティアの)主治医だ。 「本日、ティーシア様は来客中に倒れました」 その報告に、ラズは舌打ちをした。 最近ティーシアの体調は芳しくない。 足りないのだ。 一日に一回では。 血を抜く回数が、足りない。 始めは月一だった。それが週一になり、毎日になった。 いつか、一日一回では足りない日が来るであろうとは思っていた。 「一度、昔のように血を抜きましたが…」 「そうだな。様子を見て、抜くようにしてくれ。おそらく、今後は毎日の習慣の一つになるだろうな」 憎々しげに言うその表情は悲哀と苦悩が刻まれていた。 ラズの指示に、歳老いた医者は静かに、厳かに頷いた。 薄暗い屋敷の窓から見上げた空は、三日月と共に、血を撒き散らしながら這ずるモノ達を嘲笑っていた。 .
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