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日が沈み、夜が訪れる。
人々は窓を閉め、カーテンを引き、退魔のお守りを窓辺に置く。ヴァンパイアが入って来れないようにするために。
だが、一軒だけ、窓が開いている家がある。
いや、家というよりも屋敷だ。二階建てのその豪邸は、闇に包まれてなお、その存在感を周囲に振り撒く。
そんな屋敷の二階の窓。
開け放たれたそこから、白いカーテンがはためいている。
窓際にあるベッドに、上半身を起こした少女が座っている。
赤茶色の髪に、それより薄い色の瞳。病的なまでに白い肌。しかし、頬は赤見を帯びている。
少女は、まるで待っているようだ。人々が恐れる吸血鬼を。
不意に、少女が動いた。
窓の外から黒い何かが飛んでくる。
それは背中から大きな蝙蝠の翼を広げた、黒い服を着た人だった。
ヴァンパイアだ。
ヴァンパイアは開いている窓、少女に向かって飛んでいる。
少女はそれに気付いていながら、窓を閉めることもせずに、まるでヴァンパイアを待っているようだ。
ヴァンパイアが窓枠に足をかけ、広げていた翼を閉まって少女の部屋に入る。
ヴァンパイアは黒い髪に赤い瞳の少年だった。少女と歳はあまり変わらないだろう。
ヴァンパイアは少女に向かって微笑みかけた。
「躯、大丈夫か?」
「平気。今日は調子いいみたい」
「無理するなよ」
彼は少女の頬にそっと触れた。
彼の、粗暴そうな雰囲気からは全く想像できないくらい優しく、まるで壊れ物を扱うような手つきだ。
切れ長の目を優しく細め、ともすれば怒っているかのような表情は影を潜める。
少女はそれに照れたように、長く伸びたストレートの髪で顔を隠すように俯く。
「ティア、こっち向けよ」
少年が笑いながら少女を呼ぶ。
「ラズ…」
恨めしそうにティアは少年を見た。
ラズは笑いながらティアの白く細い首筋に指を這わす。
冷たい、体温を感じさせないその感触に、ティアはゾクリと背筋を震わせる。
それは恐怖のためか、それとも快感か。
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