異常という日常

3/4
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ
ラズの顔が、ゆっくりと白い首筋に近付く。 朱い舌が白い皮膚を愛撫する。 「ラズ、はやく…」 ティアが焦れたようにラズの服を掴んで促す。 ラズはその様子に唇を歪ませる。 笑った唇から、白い犬歯が覗く。 白く光る犬歯が、白く艶やかな皮膚に突き刺さる。 「は…、ああぁぁ!!」 突き刺さったラズの牙から細い管のような物が伸びて、ティアの血液を吸い上げる。 「あ、あ…、ひぁぁ!!」 ガクガクと震えながら、ティアはラズの服を掴む。 ヴァンパイアに血を吸われること。 それは決して苦痛だけではない。 ヴァンパイアの牙から流れ出る液体は、淫剤作用があり、血を吸われた人間に快楽を与える。 そのためティアの顔に苦渋の色はなく、寧ろ恍惚さえ浮かべている。 「は、ぁ…、あぁ…」 牙が抜かれ、ラズの舌が傷口を撫でる。 「…っと」 ガクリと崩れそうになるティアを、ラズは優しく抱き留める。 そっとベッドに横たえ、その躯にシーツをかける。 ティアの躯はラズの牙から流れ出た淫剤によってほてり、いまだ快感が覚めやらぬことを知らせている。 荒い息は艶を含んでおり、その表情は多くの者を引き寄せるほど淫靡なものだった。 しかし、顔色は悪く、全身が青白く感じられる。 「人、呼んでくる」 「い、から…手……」 乞われるがままに、ラズは手を差し出す。 ティアはその手を取り、頬に擦り寄せる。 ラズの手の冷たさに、詰めていた息を吐き出す。 ラズは空いているほうの手をティアの額に当てる。 「少し寝ろ」 ラズの手が、ティアの目を隠す。 冷えて行く感覚が気持ち良くて、ティアはうつらうつらとしだした。 「…ラズ」 ティアに呼ばれ、ラズは苦笑しながら彼女の隣に寝る。 彼の冷たさを求めるように、ティアはラズに擦り寄る。 ラズの人ならぬ冷たさは、ティアに安心感を与える。 ラズはそっとその白い躯を抱きしめる。 程なくして聞こえた寝息に口元を緩める。 「後五分したら女中を呼ぶか…」 そう言ってラズは、青白い顔をして安らかに眠るティアを見つめた。 .
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!