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プロローグは終演へ
痩せ細った月が、白銀に輝いている。
風邪は涼しく、窓のカーテンを静かに揺らす。
「ティア、時間だ」
「ん、あとちょっと」
ティアはベッドから上体を起こし、腰に枕を宛てて本を読んでいる。
その様子を、ラズは窓辺に座って見ている。
「明日は人に会うんだろ。そいつの目の前でぶっ倒れたらどうすんだよ」
「んー、お引取願うちょうどいい理由が出来るじゃない」
「……ティア」
少女の、本気とも取れない発言にラズは低い声を出す。
「冗談よ。ラズの言うとおり、もう寝るわ」
ティアはサイドテーブルに本を置き、ベッドに横たわる。しかし、すぐに眠る気配はなく、じっとラズを見つめている。
ラズはティアの目を自分の手で覆う。
熱があるときなどは、よくこうやってラズの手がティアの熱を冷ましていた。そのためか、ティアにとってラズの手は何にも勝る精神安定剤なのだ。
「…明日、エクソシストに会うの」
「あぁ、知ってる」
ヴァンパイアを狩るエクソシスト。
狙いは恐らく、この地域一体のヴァンパイア。その中には確かに、ラズも入っている。見つかったら、確実に狩られる。
「貴方は私が護る。エクソシストといっても、所詮はただの人間だもの。簡単に殺せるわ」
横たわり優しく微笑む彼女は、その姿だけなら神を産みし聖母のようだった。しかし、だからこそ話す内容と合間って、ゾッとするほどの狂気を感じる。
「馬鹿か。俺がお前の手を汚させると思ってんのか。殺すのは、俺の仕事だ」
ため息をつきながら、事もなげにラズは言う。
人を殺すことを仕事だと言う彼は、人間に、いや、ティア以外のすべてに興味がないのだろう。
単純で、誰もが口にする言葉だが、それを実際にやれる者は数少ない。常識や良心、社会という重圧がそれをさせない。それらを跳ね退ける精神力は、やはり狂気なのだろうか。
「ごめんね。ありがとう」
それだけ言うと、ティアは眠りについた。
やはり無理をしていたのか、目を閉じてすぐに寝息が聞こえた。
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