第1章

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「穴、ですか?」  身の危険を察知した楓翔はじりじりと下がり始める。その顔にはなぜ近づいて来るんだ天パという悲鳴が書かれていた。しかも話題が穴というのが暗示的な感じで嫌である。 「初めは生徒が知らない間に掘ったもので、悪戯だと思ったんだけどね。それにしては深いからおかしいなという話になったんだ。で、次に考えたのは地盤沈下というわけだ」  逃げる楓翔を追いつつ林田は説明を続ける。林田の目はどうして逃げるんだと子犬のように訴えているが、楓翔はそれで止まろうとは思わない。そして他のメンバーは静観を決め込んで助けようとしなかった。 「おおい。林田は別にゲイじゃないぞ」  本格的に鬼ごっこを始めた楓翔に向けて、莉音がそんなことを言う。しかしゲイかどうかは今は問題ではない。抱擁が嫌なのだ。 「ゲイじゃなかったのか」  意外だなと思った桜太はそんな感想を漏らしてしまう。あまりに男子ばかり追い駆けるのでアイドル好きはフェイクかと思っていたところだ。それにしても気に入られている莉音が率先してその可能性を否定するというのが変な構図だ。 「そう。俺も気になって確認したからさ。どうも理系で自分と同じ匂いのする男を発見すると同士として過剰に反応してしまうらしい」  莉音が本気で逃げる楓翔を目で追いつつ言った。林田も諦めが悪く必死に追い駆けている。 「同じ匂い」  抱き付くことを許してしまった桜太は複雑な心境だった。股間を蹴って悪かったなという思いもあるが、あのもさもさ天然パーマに同士と認められたかと思うと落ち込む。変人との自覚はあるが、なぜか林田と同類項は避けたかった。 「助けてくれ」  全力で逃げるのに疲れた楓翔は桜太の背中にしがみついた。優我がこの手段で逃げ切っていたので自分もというわけである。
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