第1章

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「同胞よ。どうして逃げるんだ?」  ぜえぜえと肩で息をしつつも諦めない林田は桜太に迫った。もうこのまま二人とも抱きしめてしまおうという作戦である。 「いや、俺も抱き付いていいって言ってないから」  桜太は楓翔を差し出すわけにはいかず、しかし抱き付かれたくないので首をぶんぶんと振った。このくそ暑い状況で男に抱き付かれるなんて御免だ。いや、寒くても凍死寸前までは遠慮したい。桜太は嫌を全力でアピールするために首を振り続けた。おかげで首は痛くなるし眼鏡が遠心力で飛んでいきそうだ。 「はふっ」  もう少しと迫っていた林田だが、急に奇妙な声を上げて遠ざかった。 「えっ?」  首を振るのを止めて恐る恐る目を開けると、横にいたはずの莉音が林田の背後から股間に容赦ない蹴りを入れていた。色々と林田被害を受けている莉音も我慢の限界を超えるとあそこを蹴ってしまうものらしい。 「馬鹿なことをやっていないで、さっさとあの井戸について説明してください」  莉音が冷たく悶える林田を見つめた。その目の迫力に、周りにいた科学部員たちは莉音を怒らせないようにしようと心に誓った。 「わ、解ったよ。それにしても、いつになく手荒い処置」  蹴られた林田は涙目だった。しかも相当な痛さであるらしく、内股になった足が震えている。 「それで、あの井戸は何なんですか?」  桜太はまだ背中にしがみついている楓翔に代わって訊いた。それにしても井戸の曰くが知れる日が来るとは驚きだ。 「そうだぞ。あそこに井戸がある事実を誰も知らないのも困ったものだ。俺は三年間悶々としていたんだぞ」  いきなり亜塔が割って入って来る。この七不思議に井戸を加えた男はまだ諦めていなかったのだ。しかも発見したのは一年生の時だったらしい。
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