第1章

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「水田はいつも世話になっているな。そういえば、ちょっと行ったところに川があったし」  芳樹がいつものようにカエルの入った水槽を手にして言った。カエルを捕まえるために芳樹は足繁く水田に通っているのだ。 「あっ。昔はこの辺に鉱脈があったとかは?たしか坑道が原因で穴が開くこともあるんだよな?」  桜太が閃いたと楓翔に訊く。 「ううん。聞いたことないけど。でも、この辺は新興住宅地だしな。あっ」  そこで楓翔は重要な人物を思い出した。坑道といえばあの人に聞けばいいはずだ。 「どうした?」  桜太はきょとんとする。 「松崎先生に訊いてみようよ。先生は鉱物マニアだ。坑道や鉱脈の情報は持っているよ」  楓翔の提案に、そういえばと誰もが忘れていた松崎を思い出した。林田のせいで顧問の存在を忘れてしまうとは、とんだ誤算である。 「ほう。松崎女史はそんな高尚なものを愛でているのか」  挨拶しか交わせなかった林田が松崎に興味を示す。実は林田と入れ替わるようにこの学校にやって来たのが松崎だ。おかげで林田は科学部の顧問が女性になっていて心底驚いてしまった。 「じゃあ、呼んできます」  ここは部を代表する桜太の仕事だ。桜太は早速職員室に松崎を呼びに行くことにした。 「坑道はないよ。それにしてもあの井戸。ただ穴を塞いでいただけとはねえ」  やって来た松崎は石を握り締めていた。暇を持て余して石をルーペで観察していたところに桜太が来たせいだ。ここで持ったまま来るというところに変人らしさを発揮している。 「その石、綺麗な青色をしている部分がありますね」  林田が緊張した声で松崎に話しかけた。松崎を前にした林田は普通の理系男子となっていた。女性を相手にすると緊張し、この僅かな出会いを活かしたい気持ちで一杯なのである。もさもさの天然パーマもこの時ばかりは揺れない。
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