イチハウソ wanna build our future

17/19
前へ
/20ページ
次へ
大きな川沿いを先生と手を繋いで歩いた。 多くの観光客が渡月橋を渡ったが、 私たちは渡らず、そのまま川の上流への道を進んだ。 先生は何も話さない。 抱きしめてくれたこと。 初めて沙耶と呼んでくれたこと。 こうして手を繋いで歩いていること。 自惚れてもいいのかな? 先生も私のこと好きだって。 歩くにつれて、道に上り勾配が付いてきて、 少し歩くのが辛くなり始めた時に、目の前が開けた。 まだ咲き始めのしだれ桜の大木が姿を現した。 「嘘…だろ…」 先生は少し残念そうに呟いた。 「ここまで来て三分咲きかよ。 まあ、俺にはお似合いかもな」 先生はそう言ってクスリと笑うと、しだれ桜を背にズルリと腰を下ろした。 「先生、来週になったら、満開だよね」 先生の横に、私も腰を下ろした。 「ああ、来週だね。来週は見事だろうね」 先生は、少し悲しそうな顔をして桜を見上げると、 不意に私の肩を抱き寄せた。 私は先生に体を預けた。 ドキドキする私の胸の音が、うるさい位に耳に響いた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加