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大きな川沿いを先生と手を繋いで歩いた。
多くの観光客が渡月橋を渡ったが、
私たちは渡らず、そのまま川の上流への道を進んだ。
先生は何も話さない。
抱きしめてくれたこと。
初めて沙耶と呼んでくれたこと。
こうして手を繋いで歩いていること。
自惚れてもいいのかな?
先生も私のこと好きだって。
歩くにつれて、道に上り勾配が付いてきて、
少し歩くのが辛くなり始めた時に、目の前が開けた。
まだ咲き始めのしだれ桜の大木が姿を現した。
「嘘…だろ…」
先生は少し残念そうに呟いた。
「ここまで来て三分咲きかよ。
まあ、俺にはお似合いかもな」
先生はそう言ってクスリと笑うと、しだれ桜を背にズルリと腰を下ろした。
「先生、来週になったら、満開だよね」
先生の横に、私も腰を下ろした。
「ああ、来週だね。来週は見事だろうね」
先生は、少し悲しそうな顔をして桜を見上げると、
不意に私の肩を抱き寄せた。
私は先生に体を預けた。
ドキドキする私の胸の音が、うるさい位に耳に響いた。
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