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「いや、みっともないところを見せてしまったね」
男が洋服の埃を払いながら立ち上がり、リュウに言った。
女の腰に手を回し、抱きあげるようにして立ちあがらせる。
それは見ていても気分が苛立つほど、ベタベタとお互いの体を触りあっていて、
いい大人が息子の同級生の前で見せる姿だとは思えかった。
女が声をあげて泣き出した。
「ごめんねぇ。和巳があんなひどいことして、本当にごめんねぇ」
昼間から派手な服装をした和巳の母親は、リュウの存在など気に留める様子もなく、男にしなだれかかって泣きじゃくる。
男は母親の体を抱いて慰めていたが、やがてリュウのいぶかしげな視線に気がついて、
「あ、ぼくは、和巳くんのお母さんの友達でね」
と言った。
「和巳くんが学校に行かないって言うんで、お母さんの相談に乗っていたんだ」
和巳の父親が仕事でいない時間を見計らって家に来て、二階にまで上がりこみ、
それでただ母親の相談に乗っていただけだと、中学生にも通用しない言い訳をする。
リュウは何も言い返さなかったが、張り付けた笑顔の頬がピクリと揺れた。
それが癇に障ったのか、
「なんだよ、お前。なんか文句でもあるのか?」
と、男が急に口調を変えてきた。
中学生のリュウに比べて、大人の男は身長はもとより、体の質感から違って見える。
太ってはいないがひとまわり大きく見える立ち姿で、リュウの前にズイッと足を進めた。
だがリュウは笑顔を消さない。
ただ細めた目を一ミリほどあけて、
「おれが言える文句なんかないよ」
と言った。
「和巳にはあるだろうけどね」
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