1 それぞれの悩み

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「いや、みっともないところを見せてしまったね」 男が洋服の埃を払いながら立ち上がり、リュウに言った。 女の腰に手を回し、抱きあげるようにして立ちあがらせる。 それは見ていても気分が苛立つほど、ベタベタとお互いの体を触りあっていて、 いい大人が息子の同級生の前で見せる姿だとは思えかった。 女が声をあげて泣き出した。 「ごめんねぇ。和巳があんなひどいことして、本当にごめんねぇ」 昼間から派手な服装をした和巳の母親は、リュウの存在など気に留める様子もなく、男にしなだれかかって泣きじゃくる。 男は母親の体を抱いて慰めていたが、やがてリュウのいぶかしげな視線に気がついて、 「あ、ぼくは、和巳くんのお母さんの友達でね」 と言った。 「和巳くんが学校に行かないって言うんで、お母さんの相談に乗っていたんだ」 和巳の父親が仕事でいない時間を見計らって家に来て、二階にまで上がりこみ、 それでただ母親の相談に乗っていただけだと、中学生にも通用しない言い訳をする。 リュウは何も言い返さなかったが、張り付けた笑顔の頬がピクリと揺れた。 それが癇に障ったのか、 「なんだよ、お前。なんか文句でもあるのか?」 と、男が急に口調を変えてきた。 中学生のリュウに比べて、大人の男は身長はもとより、体の質感から違って見える。 太ってはいないがひとまわり大きく見える立ち姿で、リュウの前にズイッと足を進めた。 だがリュウは笑顔を消さない。 ただ細めた目を一ミリほどあけて、 「おれが言える文句なんかないよ」 と言った。 「和巳にはあるだろうけどね」
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