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「子どものクセに、へらず口をたたきやがって」
男はカッとして殴りかかってきた。
リュウはひょいっと数歩さがる。
和巳が暴れた後らしく、物が散乱する床にもかかわらず、無造作だが不安を感じさせない足運びでリュウは部屋を後ろ向きに移動する。
逆に踏み出した男の方が、転がったコンパスを踏んで、その硬質な感触にギクリと足をひいた。
「あ、いいの? 先に手を出したのはそっちだからね」
リュウは口の中でささやくように確認してから、右手を宙にあげた。
何事かと見開いた男の前で軽く手首を振るようにかえす。
狙い違わず、リュウの指の爪先が男の眼球をこすった。
鍛えることの出来ない場所に攻撃を受け、
男は悲鳴をあげて、まぶたを両手で抑えヨロヨロと後ずさった。
和巳の母親が慌てて転ばせまいと男の背中を支える。
リュウはペロリと舌を出しかねないおどけた調子で、
「ごめんなさい。その人の剣幕に、ボクちょっとびっくりして」
と、しれっと言った。
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