1 それぞれの悩み

11/34
前へ
/120ページ
次へ
「何よあんた、失礼な子ね。一体どこの子なのっ!」 母親のヒステリックな叫びにちょっと肩をすくめると、 「和巳の小学校の時の同級生だよ。覚えてないの? オバサン」 嘘をついた。 今のクラスメートだと気づかれていないのなら、ここで素性をバラす必要もない。 「和巳も行っちゃったし、おれも帰るよ」 リュウは、今度は部屋のドアをくぐって階段を降り、家の中を通って外へ出た。 玄関にはどうしていいかわからない様子の香織とクレナが、ふたりして手を取り合って戸惑っている。 リュウはふたりの肩を押して、回れ右を急かすと、とっととその場を逃げ出した。 大人への嫌がらせに、靴をはいたまま家の中を通過してやった。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加