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「安恵さんがもしもあんな男と付き合ったら、おれがスグルに代わってぶっとばしちゃうからね」
リュウは先日来の出来事を一部始終話し、最後にふざけた口調で付け加えた。
安恵はリュウの話をあいづちを打ちながら聞いていたが、最後の冗談には少し唇を緩めただけで笑わない。
しまった。
無神経すぎたかもしれない。
安恵はつい3ヶ月前に、夫の結城スグルを仕事先の事故で亡くしたばかりだ。
人の死を見慣れたリュウだから、つい口にしてしまった軽口だったが、
たとえ冗談でも傷ついている安恵に言っていいことではなかった。
しかし安恵はすいと手を伸ばしてきて、リュウの頭をくるりと撫でた。
「中学生もいろいろと大変なのね」
視界に飛び込んできた安恵の二の腕の白さや、ふんわりと漂ってきたボディソープの香りに、
リュウは何だか気恥ずかしくなり、思わず安恵の腕を払う。
「そういうの止せって言ったじゃないか。もう子どもじゃないんだぜ」
「ナマイキね。まだまだ子どもよ」
14歳のリュウに微笑む安恵は、まだ24歳。
だけれどリュウの唯一の家族だ。
リュウとの血のつながりはないけれど……。
戦場カメラマンだったスグルが、ある日突然、異国から連れ帰ったのが、10歳のリュウだった。
安恵は、素性さえはっきりしない存在のリュウを、訳も聞かずに受け入れ家族として迎え入れてくれた、たいした度量の女性だ。
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