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インターフォンで呼び出しても返事はなかった。
「留守、みたいね」
クレナがふたりを振り返る。
香織はうなずいた。
だがリュウは、
「いいや、いるよ」
と二階の窓を見上げながら言った。
「気配がある」
「……気配って、あんた。野生動物じゃないんだから」
香織は疑わしそうに目をすがめるが、クレナはおもしろそうに、ふたりを眺めた。
とその時、二階の窓が割れた。
続けざまに学習机とセットになっているはずの椅子が、窓から降ってくる。
とっさに顔を背けるクレナと香織をさらうようにして、リュウが腰を抱き、ふたりを下がらせた。
ガラスの破片が降りかからない位置まで避難させる。
「結城?」
普段のリュウからは想像も出来ないすばやい動きに、ふたりは驚くより呆れてリュウの名を呼んだ。
だが、その姿はとっくに、重永家の一階の出窓のかかりに手をかけて、直立の壁を登っている。
屋根の端に指をかけると、弾みをつけ懸垂の要領で屋根によじあがった。
瓦を踏んで割れた窓から室内を探る。
「出せよ! おれをここから出せ!」
重永和巳の怒鳴り声にリュウは怯まず窓から室内に踏み込んでいく。
香織とクレナからはリュウの姿は視認できなくなった。
ふたりは慌てて玄関のドアに取り付いたが、鍵がかかっていて開かない。
「ちょっと! 重永くん、結城っ! ここを開けて。ちょっとっ!」
ふたりは何度もドアを叩いて呼んだ。
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