8人が本棚に入れています
本棚に追加
リュウは和巳の部屋だと思われる室内で、和巳とその父母らしきふたりと対峙していた。
窓際にはリュウと和巳。
部屋から廊下へと出るためのドアの前に、まるで通せんぼするかのように立ちふさがっているのが、和巳の両親らしき年頃の男女。
和巳は、この季節に何日も風呂に入っていないような荒れた風貌で、
食事も取っていたのか心配になるほどに、ひどくやつれていた。
その瞳だけをギラギラと光らせて、まるで野犬のように、牙の代わりに右手にナイフを握っている。
「和巳。よせ……、やめろ」
一番近い位置に立つリュウが和巳を刺激しないように静かに語りかけた。
ところが、男が無神経に高い声を出した。
「そうだ、こんなことをして何になる。やめるんだ和巳くん。お友達もそう言ってる」
声にならない叫びをあげて、和巳はたがが外れたように男女に切りかかった。
耳障りな悲鳴をあげて母親は脇へ避け、男も大げさな動作で母親をかばうように腕に抱いて床に伏せる。
和巳はふたりにいちべつをくれるとドアに駆け寄り、ドアノブをつかむと少しだけ立ち止まった。
ふと、冷めた視線をリュウに向けてから、廊下に走り出た。
「キャア!」
玄関から響く女生徒の悲鳴。
リュウは一瞬ギクリとしたが、
「重永、ちょっと重永待ってよ」
すぐに聞こえた香織の声に安心して息をついた。
床の上の男女は、和巳を気にかける様子もなく、ただお互いだけをかばい合っていた。
最初のコメントを投稿しよう!