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男が怯んだと見るやいなや、貴明は背を反らして拳を溜めた。
瞬間、スローモーションのように変わる景色。
大砲みたいに発射される貴明の強烈な一撃。
そしてドラマみたいに倒れていく男。
この世界の中で、
――貴明だけが生きているみたいだった。
殴り倒した男の体を踏みつけて、ぐったりとコンクリートに横たわっているユキには目もくれず、
貴明は屋上に建っている給水塔の上まで、跳ぶように駆けあがる。
「いっちばーん!」
まるで徒競走に勝った子どもみたいに、己の存在をアピールする。
世界に喧嘩を売っているみたい……。
あたしには、貴明が素手で太陽をつかもうとしているようにも見えた。
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