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「――先輩」
バンドの時は『ユキ』だけれど、ただの高校生の時の彼の名前をあたしは知らない。
こんな名前も覚えていない後輩のせいで、今以上にユキの身を危険にさらすわけにはいかない。
「あたしには、もうあまり関わらない方がいいですよ」
でもユキは不思議そうな顔をする。
「あたしに関わると、先輩は怪我をします」
ユキのバンソウコウを指差して教えると、ユキはすぅっと目を細めた。
……笑った、のだろうか。
あたしは思わず目をそらす。
なんでだろう。
でもユキは、あたしの視線を追いかけるように、屈託なくその場にしゃがみ込んだ。
1年生の廊下で、3年の先輩がうんこ座り。
お行儀よく待っているワンコのように、下からあたしを見上げてくる。
驚くあたしに、ユキは大きく口を開けて白い歯を見せた。
歌っている時とはまた印象が違う、それこそとびきりの笑顔で、
「ボクにとっては知里ちゃんに関われるだけで、それは『いいこと』だよ」
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