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あたしはユキのことなど、同じ学校の先輩だということしか知らない。
それ以上は知らない。
何も知らないのだ。
だけど、なんでこんなにやさしくしてくれるのだろう。
素顔であたしの前に立ったユキが、そうだとは信じられなくて、思わず誰だろうと考えてしまったくらいなのに。
そんな先輩の顔をじっと見下ろしていると、先輩の髪が一本だけ唇のところに引っかかっているのが目にとまった。
これは、邪魔くさくてうざったい。
引っかかっていることはわかっているのに、自分ではなかなか取れないものだ。
だからあたしは指を伸ばしてそれを摘むと、
力を入れて引っこ抜いた。
「痛って!」
先輩は片目をしかめる。
「ひどいな知里ちゃん」
「あ、ごめんなさい。つい……」
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