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貴明に同じことをしたのは、中3の夏だったろうか。
「てめぇ何すんだ、あぁ?」
機嫌の悪かった貴明は、些細ないたずらをしたあたしに牙を剥いた。
『怖い』
あたしは貴明に対して、初めてはっきりと思った。
「何がしてーんだよチィ」
貴明はかすれた声で聞く。
「……別に何も」
いたずらに意味なんかなく、ただ子どもの頃のような貴明のスネた顔を期待しただけのあたしは、つい目をそらす。
しかし貴明は、強引にあたしの顎を自分の方にむけ、力強く引き寄せる。
「おめぇは、オレをどうしたいんだ?」
いきなり、あたしにキスをした。
あたしには初めてのキスだった。
貴明とも、誰とも、したことのないキス。
初めてのそれはぶつかって切った血の味がした。
それから貴明とのキスは、ずっと鉄の味がする。
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