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突然、車のライトがシンを照らし、猛スピードで突っ込むワゴン車がブレーキ音を響かせてシンの前で横滑りした。 シンはとっさに後ろに飛んだ。 懐から特殊警棒を出して伸ばし、突っ込んでくるワゴンの横っ面を引っ叩いて衝撃を受け流す。 車が止まり、後部座席のスライドドアから女が転がり出てきた。 転がっても女はすぐに立ち上がり、急発進を試みる車のドアに取り付いた。 「ナズナっ! ナズナを返せばかやろう!」 車内からは子どもの泣き声が聞こえる。 ドアはかまわず、女の指を挟んだまま閉められようとした。 とっさにシンは警棒をドアの隙間にねじ込んだ。  驚いた目をこちらに向けた女と、シンの目が空中で合った。 車内では子どもを捕まえる男の鼻先2センチのところでシンの特殊警棒の先が止まっていた。 一瞬の静止後、 唸るようなエンジンと共に車がバウンドして、女は再び地面に転がる。 シンも警棒を引き抜いて車から距離を取った。 「ナズナっ!」 女は髪を振り乱して立ち上がると車を追って走り出した。 車列に紛れて走り去るワゴン車を追って車道に飛び出し、すぐ後を通りがかった軽自動車の真ん前に立ちふさがる。 運転手が発する怒声をまったく意に介さず、女は運転席のドアを開けた。 「この車、借りる」 宣言して、軽自動車の運転手の胸倉を掴むと、その体を引きずり出そうとした。 「ばかやろう! 何する……」 女の手を振りほどこうとした運転手だが、逆に助手席側から乗り込んだシンの蹴りを背中に受けて車外に転がされた。 女は手早く運転席に滑り込み、ドアを閉めてアクセルを踏み込む。 ギアを入れるのを忘れてエンジンが空吹くのを、慌ててドライブに入れて、再び奥までアクセルをベタ踏みする。 ビョンと跳ねるように車が走り出した。
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