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ということはシンが殺した相手は、ナズナの父親だったのか。
そして芹の夫だったのか。
だが芹は結婚したことはないと続けた。
たまたま産んだ子どもの父親が先堂光喜だっただけだと。
一緒に暮らす気も結婚する気もなかったと。
「最近、その光喜が事故で死んだって聞かされてね。葬式に行ったんだ。
もちろん参列するつもりも名乗り出るつもりも無かったけど、ナズナにとっては父親の葬式だ。陰からでもこっそり見送らせてやりたかったんだよ」
すると翌日、先堂久平の代理人と名乗る者が尋ねてきてナズナを引き取りたいと言ってきた。
相応の金は用意してあるからと。
「もちろん全部叩き返して、塩まいてやったよ」
だが何度も代理人を突っぱねているうちに、なんとなく不穏な空気を感じ始めていたらしい。
「念を入れて、仕事も休んで、ナズナとホテル暮らしをしてたんだけどね。何日も閉じこもりっぱなしで息が詰まっちゃって。それで油断した」
まさか名の売れた資産家が、ナズナの誘拐などという暴挙にでるとは思わなかった、と続けた。
シンが渡したココアの甘さが効いたのか、芹は落ち着いた口調を装っていたが、その手は細かく震えている。
「こんなヤツが相手でも、あんたはあたしの依頼を引き受けてくれるのかい?」
芹はシンのことを私立探偵か何かだと誤解したようだ。
シンは小さく頷いた。
芹はうれしそうにハンドルに戻り、それから思い出したように照れ笑いをして、シンを上目づかいで見た。
「あのさ。今からの運転、頼んでもいいかな? 実はあたし免許持ってないんだ」
背中を伝う冷や汗を悟られないように注意しながら、シンは席を代わることを了承した。
無茶する人間もいたものである。
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