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「本物の殺し屋になんぞ『会いたい』なんて言うんじゃないね。もしも会ったら、そいつは間違いなくもう死んでる。目撃者を生かしておくほど、プロはやさしくはないからね」 入口には『南チャン』と書かれた暖簾が下がっている。 店の中に入れば保健所の許可などおりそうにない汚い床とテーブルが並んでいて、そこにのっそりと現れるのが、薄汚れた白衣を着て脂ぎった顔をした、この店の禿げオヤジだ。 オヤジは見るものが虫唾のはしる笑顔を浮かべ、ワケも知らずに迷い込んだ客なら、容赦なく店から叩き出す。 『南チャン』が迎える客は、普通食事など必要としていない。 この店の宣伝文句は『殺し屋出前します』。 『南チャン』がいつからここにあるのか、オヤジがいつからここにいるのか、誰も知らない。 店はいつの間にかここにあり、オヤジはいつの間にかこの街にいた。
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