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「なんだかシンのこと色々吹き込まれてて、ワタシのハナシを期待して、鼻ふくらませてやってきたね。
この店来るなり『スゲエー』ときた。何でも反応が大げさだからオモシロかったね」
シンは表情のない目で、ふとオヤジを見た。
「ああ。オヤジさんも、ずいぶんと口が軽くなったと思ったよ」
オヤジが暗い海の底と表現した漆黒の瞳が、オヤジの眉間をまっすぐに射抜いた。
オヤジは慌てて姿勢を正した。
その視線だけで、シンが他の誰とも違う存在だとオヤジは思い出したのだ。
「わかってる。わかってるよシン。シンはおしゃべりはキライだったね」
直立不動の状態で首だけをコクコクと動かすとシンは首をかしげた。
「覚えてたのかい? 俺は見境なしに赤ん坊も殺すヤバいヤツだからね。出会った人間はみんな死ぬって話だけど」
突然、オヤジの腹にシンの右手が添えられた。
目を下に向けるとシンの手のひらには、すっぽりとおさまる、それでも黒々とした銃口が見えた。
「今日まで生きてたオヤジさんは、ただ運が良かったのかな?」
「シン……、機嫌が悪いのかい?」
オヤジはよろけるようにしてカウンターまで後ずさった。
カウンターに後ろ手を付き、背中を仰け反らせ少しでもシンから距離を取る。
そんなオヤジを追ってシンは猫のようにゆったりと歩いてきた。
そしてオヤジに触れんばかりの位置まで近づく。
逃げればいいのに足が動かない。
狙われたネズミのように視線だけが張り付いてそらせない。
喉がひりつき声が掠れる。背中にじっとりと汗をかいた。
するとシンは、
「冗談だよ」
と、手にした銃をオヤジの眼前まであげて引き金を弾いた。
それはカチリと音がして火がつくおもちゃだ。
「じゃあね」
シンは身をひるがえして店から出て行った。
オヤジは今まで呼吸することさえ忘れていたように息を吐き、カウンターに寄りかかって唾を飲みこむ。
「一体何しに来たんだよシン。あんなのホントに冗談じゃないね……」
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