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幼少時のシンの記憶は、過酷な訓練所の朝から始まる。 そこでの教官の口癖は、 「死ぬのは弱いからだ。弱ければ死ぬだけだ」 5歳から7歳までの年頃の子どもばかり、30人を集めた宿舎の朝は、教官が放つ一発の銃声の目覚ましで始まる。 起きた早々、マガジンを込めると4キロ近くになる短機関銃を腕に抱えて走るガン&ラン。 走り終えると汗を拭う間もなく、さまざまな武具を扱う訓練に続く。 銃にナイフ、暗器の扱い。 この訓練のお陰で、意識が朦朧とした状態でも、子どもたちは武器を操れる身体になる。 早朝訓練を終えた後の、質素な食事の時だけが、僅かなヒトらしい時間だった。 口をきくことも許されず、一列に椀を持って並ぶ子どもたちに、厨房係の女はひとりずつスープを注いだ。 たったそれだけのことだが、子どもたちにとっては、命をつなぐ温かい食事で心を解きほぐせる、貴重な時間だった。 そんな時を与えてくれた女の名はリーレイ。 そして宿舎の中では、リーレイだけが、唯一、子どもたちを殴らない大人だった。 過酷な訓練と乱暴な教官しか知らない子どもたちだが、リーレイだけが、その誰とも違った。 リーレイに対してだけは、誰もが特別な感情を抱いていたと、シンは思う。
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