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そいつは、疲労と空腹とで、きっと周囲を確認するのを怠ったのだろう。 よろめく足取りの背中を見た。 様子を窺っていた少年の前に、ふいに姿を見せたのだ。 危なかった。 お互い気配を絶つのは当然のことだから、この水の側まで来て、どちらが先に姿を見せるかは、ちょっとしたタイミングと運だけに左右される。 たったそれだけが、子どもたちの生死を分けるのだ。 そいつが、堪りかねたように水辺にしゃがんで水を汲もうとした一瞬に、少年は茂みから音も無く飛び出した。 こちらに向けた背に馬乗りになって、その首筋、急所に向かって、右手に握ったサバイバルナイフを振り上げた。 そいつは……、 首を捻るようにして、こちらを見上げた。 ――少女だった。 短い髪をして、顔は泥で薄汚れていて、少年と同じ服を着てはいたが、その顔は、まごうこと無き女だった。 何故か、唇が紅をひいたように血まみれだった。 唇が、まるで血を飲んだように、生きた獣に獰猛に喰らいついたかのように、真っ赤に染まっている。 少女は、血に酔って、うっすらと微笑んでいた。 少女が喰らいついた相手は、果たして獣だったのだろうか――。 見ようによっては恐ろしい光景だが、血の紅をひいた少女は、何故だか美しく見えた。
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