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次の瞬間、少年は背中に厳しい衝撃をくらった。
結果的に生きていたから、後で麻酔弾を打ち込まれたのだと知るのだが、少年の記憶は、ここで一旦途切れている。
次に少年が気がつくと、目の前には、禿頭で脂ぎった顔をした、みっともないオヤジがひとりいた。
「……チビスケね」
目の前の禿げオヤジは、自分もチビなクセに、そんなことを言う。
少年は思わずムッとしたが、状況が把握できないまま、余計な口を利くことはためらわれた。
「名前は?」
オヤジは、少年の警戒心を無視して尋ねるが、少年は答えなかった。
また答えるべき名前もない。
オヤジは、ひとつ息をつくと、
「じゃ、信(シン)ね」
まるで犬にでも名づけるように、面倒くさそうに、そう言った。
「この世の中、信用商売よ。裏切ったら死ぬしかないね。『信じる者は救われる』のシンね」
何がおかしいのか、見ているだけで腹がたつ笑い方をする。
薄汚い白衣のポケットから見たことのない小銭を出して、放り投げるようにして、少年に寄こした。
「まずは環境に慣れてもらうね。この国の空気がつかめたら、仕事が山積みよ」
シンが初めて目にする日本は、呆れるほど呑気な国だった。
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