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「ありました。おそらくこれです」 オヤジが断った依頼でも、ちゃんとパソコンで管理して、ターゲットの情報や依頼人の身元調査をすませておく、そんなポチの几帳面さに今回は助けられた。 シンも顔を寄せるように、パソコンの画面に目を落とす。 そこには、隣国の有名女優の顔写真がupされていた。 「ポチのやつ、この女優のファンなんですよ」 暴露したポン太の頭を、ポチは乱暴にこづく。 別に個人的趣味をとやかく言うつもりはないが、わざわざこの写真を見せた訳を待っていると、 「この女優を殺してくれって依頼が、オヤジさんとこに来たんです。一ヶ月くらい前かな?」 タマが言った。 「オヤジさんがちゃんと断った案件なんですけどね。それでも、ただの女優がなんで命を狙われるのか、どうしても気になって、ターゲットの背景とか人間関係とか、思わず探っちまったんですよ」 ポチが照れたように続ける。 この女優のファンだったというから、なおさらだろう。 「依頼があったのは、正確には24日前です。ターゲットは、日本でも名が知れた人気女優『靜螢(ジンイン)』。 そして依頼主は、表向きは彼女の国のマフィアを通してきましたが、遡ってみれば、出所は彼女の国のファーストレディでした」 「はあ? ファーストレディっていえば、国の国家主席の奥さんのことだろ? なんかえらく壮大な話だね」 初めて聞かされたのか、タマが呆れたような声をだした。 ポチもちょっと肩をすくめる。 「これが冗談だったら、面白いんだがな」 ポチは自分の腹部に手をやった。 「ジンインは国家主席のお手つきです。愛人ってやつですね。そしてどうやら、いま身ごもっているらしい。 ファーストレディの本当の狙いは、旦那の愛人の命じゃない。今その愛人の腹ん中に身ごもっている、子どもの方なんです。依頼の理由は、くだらないお家騒動なんだろうな」 そしてジンインは、約一ヶ月前から、この日本に滞在し続けている。 「母国に帰れば、どんな手段で殺されるかわからないからね。きっと日本に逃げてきたんだろうさ」 表向きは映画のプロモーションで来日し、その後、事務所に休暇を願い出たきり行方不明になっているという。 「ま、この日本にいる限り、おれの探索網から逃れられるとは思えませんけどね」 ポチは自慢気に言って、パソコンを操った。
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