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シンは目をそらさなかった。
理由のわからない警報が頭の中に鳴り響いている。
この小型の肉食動物と、どこかで会っている。
そしてこの獣は、今まさにシンを獲物として狙いをつけたはずだ。
だが狙われたからといって、シンは黙って喰われるウサギではない。
身体の力を抜いて、その瞬間に備えた。
シンも肉食獣だ。
そしてシンが動くとき、獲物は自身の死にすら、気がつくことはないだろう。
シンに予備動作などいらない。
目にもとまらぬスピードで、必要最小限の動きで、シンは獲物をしとめる事が出来る。
女は、果たしてそのことに気づいているのだろうか。
もしかすると、女の美貌に魅了され、ただ立ち尽くしているだけにしか見えないのかもしれない。
そんなシンに向かって、女は、無造作に一歩を踏み出してきた。
シンの手の中で、特殊警棒が、強く己の存在を主張し始める。
――その時、
酒に酔った集団が、立ちつくすシンの脇を通過した。
岩を避けて流れる川のように、賑やかな集団のスピードは緩まなかった。
人波にのまれて、少しだけシンの視界に邪魔が入る。
その一瞬の間に、シンの前から女の姿は消えていた。
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