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一旦潜伏したラブホテルで、気を失ったタマに水を含ませてやると、容易に意識を回復した。
「あれ、何だったんですか?」
大地震でも起こったのかと錯覚したほど、店を揺らしたものの正体がわからない。
火薬の臭いはなかったから爆弾のたぐいではないし、何かが飛びこんで来たわけでもないから、ソニックビームでもない。
シンは教えた。
「おそらく自励振動の装置が、店に仕掛けられていたんだ」
聞き慣れない単語に、3人は訳がわからないと首を傾げる。
「建物の外壁に取りつけて、その振動を伝達させ、建物全体を崩壊させる装置だ。今の科捜研の技術では、瓦礫の山に紛れたら見つけられるものじゃない」
ポチだけが、シンの言葉に顔色を変える。
「そんな本格的なものまで持ち出して、俺らを狙ったんすか? それって一体どういう意味なんです?」
シンは、何でもないことのように答えた。
「お前たちが、組織的なプロの殺し屋から目をつけられていた、という意味だ」
今度は、3人ともがその顔色を変える。
「オヤジさんは? オヤジさんに早くこのことを知らせなきゃ」
タマは言って立ち上がろうとした。
しかしシンは首を振る。
「自励振動の装置を設置するのは容易じゃないし、一度使えば、存在がバレる。それをあからさまにしてまで、店に踏み込んできたということは、すでに目的は果たされたということだ。
オヤジさんに手が回っていないとは、考える方が不自然だ」
シンの非情な言葉に、3人組は思わず口をつぐんだ。
「あきらめろ」
ダメ押しとばかりに、シンは言う。
「――そんな。オヤジさんは、じゃあもう……」
愕然とするタマの身体を支えるようにしてポチは尋ねた。
「相手は一体誰なんすか? 一体おれたちは、何者に狙われているんです」
叫ぶようなその問いかけに、シンは問いで返す。
「ここ半年間の間に、店にきた依頼を全部話せ。
本当に狙われているのは、……俺だ」
もう何度目かの沈黙が辺りを支配する。
待望していたシンが店に尋ねてきてから、碌なことがない。
「相手に、心当たりがあるんですね?」
息を飲む音まで聞こえそうな静けさの中で、ポチが口火を切った。
シンは、
「ああ、昔馴染みだ」
と答えた。
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