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どこか座れそうなところはないかと周囲を見渡す。
優しそうな老婆の隣が空いているのを見て、僕はその空いているところに腰掛ける。
隣の老婆は空を見上げていた。
僕も空を見上げる。朝の空というよりは夜空と言ったほうが適切な感じだった。やはり、太陽は昇らない。
「坊やは空が好きかな?」
隣にいた老婆が優しい口調で言った。
「……はい」
少し複雑だった。僕も夜空は好きだが、それは正反対の時間が存在するから魅力的になるわけで、一日中ずっと夜空というのは少し安売りな気がしたからだ。
「そうかい。わしは少しこの空が怖いかな。こんなにも輝いて綺麗で微塵の曇もないというのはものすごく怖いことなんだ」
老婆に刻まれているしわが僕の視界を奪う。そして、僕は首を左に少し傾ける。この人は僕より何年も多く生きているのにまだ怖いものがあるのかと驚いた。
つまるところ、僕の中の恐怖という存在はそのもの自体を認識しない、もしくは知らないという未知との遭遇が恐怖を導くと思っていたからだ。歳をとり、色々な経験をすれば自ずと知らないことは減る。そうなれば、怖いことなんて無くなると思っていた。
「どうして? 綺麗なのに怖いの?」
「そう、綺麗だから怖いんじゃよ。綺麗で真っ白なものばかりを見ていると、すぐに黒い醜い自分が内側から飛び出てきてしまう」
老婆のその言葉にそいつを連想してしまった。
人の温もりというものが恐怖を和らげることを知っている。
だから、僕は少しばかり老婆に近づき、また空を見上げる。
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