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「坊やは本当に綺麗なもの好きだね」 確かに綺麗なものは好きだ。 でも、太陽があった世界の僕は、綺麗なものをばかりを見ていたかというとそうではない。どちらかといえば、黒々したお世辞でも綺麗とは言えないそいつを僕はよく見ていた。 「そんなことはないよ。僕はよく黒いやつを見ていた」 初めて、そいつのことを自分の外部に出した。というか、意図せず僕はそいつのことを言ってしまっていた。  老婆は少し驚いた表情で僕を見つめていたけど、その表情はすぐに和らぎ、「そうかい」と言って笑った。 僕もその表情に釣られて笑った。 少し老婆と僕は空を見上げていた。 そして、老婆はゆっくりと口を開く。 「この世界は真っ暗でしょ? だからここにいる世界の人たちは何かしら光ろうとするの。どういう意味か分かる?」 「あーうん……それはこの世界みたいに暗くならないためにってこと?」 僕は左に首を傾けながら、老婆に訊く。 「いや、違うねえ。暗くて何も見えないから光ろうと思えるの。だって、明るいものがもし天にあったら、黒いものが浮かび上がってしまうからねえ……。知らなくていい部分も知ってしまう。けれど、ここは真っ暗だからそんなことも知らないし、見えないんだよ。だから、光しか知らないから光ろうとする」 僕はさっき傾けた逆の方向に首を傾ける。 老婆の話を聞いていると、僕の頭の片隅にそいつが見え隠れする。 空を見上げていた視線を下げ、ゆっくり自分の足元を見る。 もう、僕の足元には誰もいない。 「つまり、人間は自分の嫌な部分を見ようとはしないんだよ」 そう言った老婆は悲しい表情をしていた。  僕は上ばかり見ていて気付かなかった。老婆の周りには僕しかいなかった。 この公園には僕以外の人がこんなにいるというのに。 「だから……」 小さく僕は呟く。 僕は老婆にお別れの挨拶をして、家に帰ることにした。
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