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僕もあの老婆と同じだ。
気付かなかった。いや、気付いていたけど見えないふりをしていた。
やっと、それを真正面に受け止めようとしてしっかりと見たときには、一人ぼっちになっていた。
あの時に言っていた友人の言葉、母親の言葉、先生の言葉。それらはしっかりと意味があった。だけど、その言葉は自分がよく分かっていることだからしっかりと受け止めきれなかった。
そう、僕は世界を変え、逃げてしまった。
エゴを通すために楽な道を選択してしまった。
ふと、足元を見る。
やはり、そいつの姿はなかった。
人という文字は二本の棒が寄りかかり、成り立つ。
一本の棒は白く光っており、もう一本の棒は黒く染まっている。
それらが交わり、グレー色に変化するとき、どちらかの色を選択しなければならない。そして、一度選択してしまえば、その選んだ世界の景色しか見ることはできない。
僕の選択は白を捨てて、黒を選んだ。
いや、本当は白を選んだつもりだったのだけど。僕と黒は乖離した存在だと思い、捨ててしまった。そのことが結果的に白を失うことになり、真っ黒なそいつに僕はなってしまった。
だからといって、その時に今とは違う選択肢があると知っていても、どれが正解なのか分からなかっただろう。まだ、経験の浅い僕には分からないことだらけだ。
だから、僕は色々なことを知る旅に出ようと思う。
おそらく、この旅は長くなる。
この旅はけして僕らが思い描くような楽しいものではない。
険しく困難な道を幾度なく乗り越えなければならないものだ。
そして、その旅が終わり、墓場に入るその時に、僕はすべてを知ることになるだろう。
あの時の選択は――と。
だから、知ることになるその時までこのことは僕とそいつの秘密にする。
おそらく、今もそいつは誰かの足元で呟いていることだろう。
「キミノカゲ」と。
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