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まず、そいつの呟きは「ヒトツカナエル」という言葉の音だと把握した。それから、その言葉に込められた意味を探る。カナエルというのは叶えるということで、ヒトツというのは一つということだろう。これを合わせて考えると、何か願い事を一つ叶えてくれることだと理解した。
そこからは、小学生である僕の妄想は広がる。もしかしたら、そいつは実のところ良い奴で僕に幸せをもたらすために来たのではないかと思った。だから、僕もそいつの期待に応えようと一つ願い事を考える。
しかしながら、一つだけと限定されてしまえば、安易な結論を出すことはできないと迷いが生じる。もちろん、現段階で太陽を消すなどの選択肢はなく、ごくごく小さな願い事ばかりだった。
結局、いくら悩んでも結論を出すことはなく、気づけばそいつと出会って数ヶ月が経っていた。
その頃から僕はそいつとの距離感が分からなくなり、一線を越えるような関係になっていた。いや、一方的に僕が好意を抱くようになっていたという方が適切かもしれない。そいつは、母子家庭で兄弟もいない僕にとって初めての相談相手になってくれた。もちろん、言葉は「ヒトツカナエル」しか言わないけれど。
むしろ、聞いてくれるだけの存在で十分だった。そいつは特に害することなく、ただ太陽の光を受けて浮かび上がり、少し呟くだけの存在。もちろん、呟くだけのそいつは僕に意見しないし、何より怒ったり、叱ったりしない。
僕はいつしかそいつを信頼するようになっていた。
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