2696人が本棚に入れています
本棚に追加
あ、ヤバい。これヤバいやつや。セリフの最後に聞いてはいけないものを聞いてしまったような気がする。
「嗚呼、麗しきお坊ちゃま……早く“成長”なされればいいですのに――じゅるり」
既に僕の貞操がピンチな件について。ねえ母さん、ここに犯罪者予備軍がいます。本当に大丈夫かな……。
庭に着いたので下ろしてもらい、代わりに服の裾を掴んで歩き始める。「これが萌えですわ」とか言っていたけど無視だ無視。ですわじゃないってば。
「あっ、レオ様」
僕に気がついた庭師のナタリーさんが声をかけてくれた。眼鏡をかけた妙齢の女性である。もう一人男性の庭師さんもいるのだが今は見当たらないようだ。
「ナタリーしゃ――けがしてる?」
草木に引っ掛けたのだろう、指先にできた切り傷から血がぷっくりと滲み出てきていた。
「本当ですね、気づきませんでした」
ナタリーさんはその仕事の関係上、手先を怪我しやすい。一つ一つは小さい擦り傷や切り傷でも、放置すれば化膿する。女性の身体に、残る傷をつけるなんていうのは論外である。
「ナタリーしゃ、手、かして?」
「手ですか?はい、レオ様」
僕の目の前でしゃがんで手を差し出してくれるナタリーさん。長いまつ毛に優しげな雰囲気を湛えた眼が映るが、違う違うそっちじゃない。
ちゅぱ。
切り傷のできた指を、その口に含む。所謂唾つけときゃ治るというやつだ。
「れれれれレオ様!?」
なんかもう皆僕の一挙手一投足に驚き過ぎである。指咥えて舐めてるだけなのに。毎日そんな様子じゃ身が保たないと思うけどなあ。
ひとしきり舐め終えてぷはっとナタリーさんの指を解放する。女性の指先が自分の唾液でテカテカと輝いてると思うと……倒錯的だなあと自覚してちょっとへこんだ。
「こうするといいって、だれか言ってた」
「女の人、けがそのまましちゃダメ」
きゅん、という擬態語が聞こえた気がした。見れば、ナタリーさんの頬が若干赤く染まっている。
「ふふっ、ありがとうございます。レオ様」
「嗚呼、ナタリーいいですわね……」
アーダさんは無視することにした。
あれから更に二年。僕は三歳になっていた。幼少期の二年は個人的な視点で見れば大きいが、取り巻く環境がそう変わるはずもなく。いつも通りな日々を過ごしながら、運動や魔法の練習に明け暮れていた。そのおかげか体力も三歳児にしてはかなりついたと思う。
最初のコメントを投稿しよう!