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「お帰りなさい、あなた」
母さんがそう言って、男の人を出迎えた。やはりそうなのか。ふむ、と父さんを見遣る。無骨な印象を受ける顔に短く生え揃った髭、若干煤けた服装。いかにも冒険者然とした様相だった。
「お帰り、パパ」
「ほら、あなたの息子よ」
「おお、なかなか可愛いじゃねえか。お前の血を引いてるだけあるな」
ゴツゴツした手が僕の頭に乗せられる。
「悪いな、小さい時に面倒見てやれなくて」
「パパ、お仕事だって言ってた」
「頭も良いじゃねえか。こりゃ将来有望だな」
そう言ってくつくつと笑った。その仕草はあまり貴族らしくなく、むしろ平民のそれのようだった。どういう経緯でくっついたのか、また機会があったら聞いてみてもいいかもしれない。
「イーラ、早速今夜愛してやるよ」
気づけば両親がベッドの上の予定を立てていた。おい我が父よ、息子の教育に悪いのではないか。別に今更気にしないけど。もしかしたら弟か妹ができるかもしれない、そう思ったら、好き放題やってくれと考えないでもないかな。
今度父さんはいつまで屋敷にいられるのか分からないけど、やっと家族三人で過ごせるのだ。前世の僕にはあまり分からなかったが、こういう生活ができることが幸せなんだってそう思わずにはいられない。
その日の晩、夜の静けさに混ざって男女の嬌声が聞こえてくるのだが、それはまた別のお話。
が、そんな平和は早くも崩れ去る。他ならぬ父さんの手によって。そして――僕自身の手によって。
それは、父さんが帰ってきてから一週間ほど経ったある日のことだった。
「きゃあっ!?」
マリアさんの悲鳴が聞こえた。まさか賊が侵入したのかっ!?
僕はその声のする方へ、覚えたての魔法も併用して駆け足で向かう。 三歳児の足とは言え、魔法も併用すればその速度は五十メートル六秒ほどになる。立派な高校生のスプリンターだ。
騒がしい物音がする――マリアさんの部屋に突入すれば、そこにいたのは賊などではなく――
「おやめください!旦那様っ!」
――お世辞にも大きいとは言えないその逸物を晒して、荒い息を吐きながらマリアさんを組み伏せんとする、父さんだった。
頭にカッと血が上るのが分かった。大人と子供とはどうにもならない体重差がある。体当たりしても弾き返されるのが精々だろう。であれば僕が取る手段は一つだった。
「マリアさんに、乱暴するなっ!」
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