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自分でも驚くほどに怒気の篭った声と共に発せられたのは、純粋な魔力のみで構成された『魔力弾(ファントムバレット)』。
サッカーボールほどの大きさのそれは、父さんの脇腹に真っ直ぐ吸い込まれるように飛んでいき、問答無用で吹き飛ばした。
「れ、レオ様……?」
「マリアさん、大丈夫っ!?」
「はい、まだ何もされていません」
急いで駆けつけ、マリアさんの無事を確認する。
「おう、レオ……やってくれるじゃねえか」
ふーっ、ふーっと息を吐く父さんは、随分とキレていらっしゃるようだった。お楽しみのところを息子に妨害されたのだから無理もないだろうが……。
「マリアさんに、乱暴はさせない」
睨まれたところで、主張を変えるつもりはなかった。『ファントムバレット』を数発用意する。
魔法が使えるのは一部の人間らしく、父さんはその一部ではなかった。接近する父さんに、容赦なく魔力の弾丸を当てていく。息子に容赦しない人に、子供が容赦できるはずもない。手加減など、できるはずもない。
そんなことをすれば内装はボロボロ、至る所傷だらけだ。それに。
「どうされましたか――こ、これはっ!?」
「一体何が……きゃあっ!?」
あれだけの騒ぎだ。人なんてすぐにやってきてしまう。優秀な執事さんたちの手によって、事態は急速に収拾していった――大きな傷痕を残しながら。
確かに事態は収拾した。およそ最悪とも言える結果で。
執事さんに取り押さえられ、ヤケになって全部ブチまけた父さんは最後に「こんな家にいられるか!」と激昂して出て行った。もう戻ってくるとこはないだろう、とのことだった。戻ってこない、というのは、領地を出て行く、という意味だ。
母さんたち、昔からの馴染みである人の話を聞く限り、父さんは女癖が悪かったらしい。行く先々で女の人とよろしくやっては無責任に孕ませもしたという。ところが母さんを孕ませたことで実家からの圧力がかかって結婚、落ち着いていた、はず、だったのだが。
今回、マリアさんがその被害に遭いかけた、というわけだ。心証が悪いのは、主に母さんとマリアさんの二人だった。
「ごめんなさい、ママ。こんなことになって」
仮にも夫である人を追い出す結果になってしまったのだ。母さんから恨まれても何も言えない。
「レオ、あなたは何も悪くないわ。あの人がああいう人だったから、今回のとこが起きてしまっただけなのよ」
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