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そう言って頬に手を添える仕草は実に優雅で、貴族然としていた。様になってるなあ。これを母さんがやると狙ってる感が溢れ出てくるからなかなかこうはいかない。そういうキャラなのである。
「大丈夫ですよ。今日はエルザの様子を見に来ただけですから」
「だって、エルザ。レオンお兄ちゃんが遊んでくれるって」
「……レオちゃ?」
ヴェラさんの隣で借りてきた猫のように大人しくしているエルザが、おずおずと僕の名前を呼んだ。そのたどたどしさが……前世のコミュ障の僕と重なって、唐突に謎の虚しさが僕を襲うのであった。いやエルザの場合は単純に人見知りか。
「もう、お兄ちゃんをちゃん付けなんて……」
「僕たちは子供ですし、変に畏まられるよりは全然良いですよ」
とまあそんな感じで、エルザと仲良く遊んだり、前世の営業スキル(私語でなければコミュ障は発揮されないのである)を駆使して世間話に花を咲かせたりして時間を過ごした。
「迷惑でなければまたお邪魔しますね」
「あら、お邪魔だなんて。エルザにも良くしてもらえるし、レオン君なら大歓迎よ」
「レオちゃ、またあそぼ!ね?ね?」
特に、エルザにはすっかり懐かれたようだ。僕の服の裾を握って必死におねだりする姿は非常に愛らしい。何人かは僕がロリコンだと疑っているようだがそれは断じて違うとここに明言しておく。
「それではまた」
「またね、いつでもいらっしゃいな」
ヴェラさんの言葉を背に受けて子爵家をあとにする。さて、当の子爵様はどうしているのやら。少し調べてみるか。
魔力の波長は大体確認できたし、探索魔法を使えば位置の特定は難しくない。この魔法は、魔力の緻密なコントロールによって成り立つもので、いわゆる上級魔法などのようなとりあえず魔力を込めれば発動する、という脳筋魔法ではない。故にカテゴリーが別なのである。
――見つけた。
サーチ範囲を最大限に伸ばし、物量で以って人海作戦でしらみ潰しに探した結果、一つの小さい宿がヒットした。
何の変哲もない普通の宿だ。多少内装が豪華な気もするが、爵位持ちの人が贔屓にするレベルだと思えばこんなものだろう。
問題は、そこで交わされていたやり取りである。
『それで、ルーデンドルフはいつ落とすんですかい?』
『決行は一週間後の夜半だ』
『子爵様、報酬の件は……』
『無論、保証する』
随分物騒な単語ばかりだなあ。
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