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まあ、前世で会社を立ち上げた時だって、新規だからと周りから要らぬちょっかいをかけられたものだ。異世界でも同じようなことがなされているだけだと思えば、大した違いではない。
しかしまあ、政変を企むとは。ここで暴力に訴えても何も変わらないので、畑違いな僕は大人に任せることにした。具体的には、母さんにチクったのである。
子供の世迷言と受け取ることもできようものだが、母さんは僕の言うことを一切疑わずに捜査を開始。機動力抜群なルーデンドルフ家の執事たちを上手く使い、子爵の目論見は一気に白日の下に晒されることとなる。さすがに伯爵家の当主を務め上げるだけあって、その手腕は相当のものだった。
さて、そんなわけで事態は大きくなる前に霧散し、事後処理を残すのみとなった。どういうことかと言うと、今回の件に関してガーブドルフ子爵家をるどう扱うか、である。
あの日から数日後。親戚総出で裁判が行われることとなった。まあ、裁判というかその家に関わるもの全員で被告の進退を問おうというものである。
死刑だの終身刑だの色々なセリフが飛び交う。中には減刑を求める声もあったりで、これでは収拾がつかないのではと思うほどだった。子爵を擁護しているのは、間違いなくその派閥に属する家柄なんだろうな。ルーデンドルフに連なる者も、一枚岩ではないということだ。
そんな喧騒の中、母さんは言った。
「レオンハルト、貴方が決めなさい」
「……は?」
当然僕は耳を疑ったし、多分この場にいた全員が自分の耳を疑っただろう。こんな大事な場面で当主としての判断をまだ成人すらしていない子供に委ねると言うのだから。
「当主補佐としての、良い機会だと思うのよ」
将来、妹であるクリスが当主、僕がその補佐となり、地位を盤石のものとしてほしい、ということだった。その旨は理解したけど、さすがに荷が重くないかなあ。
なんて思って周りをちらちら見てみるものの、皆の僕を見る目はさあ判決をと言っているようだった。目は口ほどに――じゃなくて、いくら当主である母さんの一声だからって非常識過ぎやしないだろうか。
「ほら、レオンハルト」
「……分かりました」
どうやら意志を曲げるつもりはないらしい。ここは僕が折れるしかなかった。
「では、当主イーラに代わりましてレオンハルトがこの場を仕切らせていただきます」
コホン、と一つ咳払いをして顔を上げる。
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