幼少~少年期

31/53
前へ
/280ページ
次へ
大の大人たちがこれでもかというくらいに僕を見ていた。企画のプレゼンをしている時以上の注目度である。……嬉しくない。 「まず、今回の主犯であるガーブドルフ子爵であるが、反逆罪で……打ち首とする」 自らの口で死刑宣告を言い渡す。それはなんと重いことだろうか。大人たちの反応を窺うに、これは妥当であるようだった。 「そして、その家族。妻のヴェラ……と娘のエルザだが、子爵と同罪として打ち首――と言いたいところだが、ヴェラが今回の件に全く関与していなかったことに加え、エルザがまだ一歳で仇討ちの可能性もないものと見て、条件付きで最低限の生活を保証する」 僕がそう言うと、室内の空気がどこかホッとしたものになった。さすがに妻子まで処罰するのは気が引けたらしい。そこに関しては僕も同じである。 「当主を失ったガーブドルフ家は取り潰し、遺産や金品はルーデンドルフで預かるものとして、ヴェラとエルザの生活費はそこから充てる。異論はないか」 異議あり、などと言う人はおらず、無事に閉廷となる。 「ヴェラ――」 思わずさん付けで呼びそうになったが、すんでのところで踏み留まる。まだここは公の場だ、そういう呼び方は許されない。 「は、はい」 何を言い渡されるかと緊張した面持ちのヴェラさん。 「貴女のエルザに対する教育に“期待”している。くれぐれも、同じことが起きないように」 「分かり、ました。最大限の御恩赦に感謝致します」 そうしてヴェラさんと別れた後。僕は、死刑執行の現場に居合わせていた。立ち会うかと訊かれたから、立ち会うと答えたのだ。それが、判決を言い渡した僕の義務だと思ったから。 鉄格子越しに映る、ショッキングな光景。酸っぱいものがどこからか込み上げる。 その場で、僕は胃の中のものを全部ぶち撒けた。 「レオ様っ!?」 中へ入って駆けつけてきたのはマリアさんだった。 「ハアッ、ハアッ、ハアッ――」 その後なんとか落ち着きを取り戻し、口の中を水で綺麗にして、汚れた床を処理するマリアさんたちを眺めていた。 「レオ様、具合はいかがですか?」 処理を終えたらしいマリアさんが、声をかけてきた。 「……うん、もう大丈夫。ありがとう」 体調は、もう、大丈夫だけど。独りでは、いたくなかった。 「マ、マリアさん。今日は、一緒に……ね、寝てほしい」 その日の夜、僕はマリアさんの腕の中で眠りに就くのであった。
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2696人が本棚に入れています
本棚に追加