幼少~少年期

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さて、そんなこともあったが、数週間経った今ではその影も消え去っていた。 今回の件を受けてふと思ったのは、僕も諜報部隊欲しいなあということだった。インテリジェンスってカッコいいしね。 だがどうだろうか。大人を雇うには僕の信用度が些か低いし、かと言って子供だと十分な働きが見込めない場合もある。男性のタフさは大切だし、女性の強かさもここぞというところで生きてくるだろう。 そこで、少し表現を変えて母さんに相談してしたところ「あら。そういうことなら、王都に奴隷を買いに行くのもいいわよね」と言われた。 なるほど、こっちにはそういう制度もあるのか。 「奴隷?」 「そ、奴隷。簡単に言えば、比較的思い通りに動いてくれる家臣みたいなものよ」 比較的と言う辺り、無茶な命令はできないんだろうなと思う。まあ制度として成り立たせる上では重要なことなのかもしれない。 というわけで急遽、王都観光も兼ねた奴隷探しの旅に出かけることとなったのである。旅というかただのお出かけだけど。 ルーデンドルフ領から王都までは馬車で片道数時間もかかる。つまり、道中はかなり暇になってしまうのだ。 「レオ様ぁ、マリアのお膝が空いていますよ?」 「どうしろって言うの……」 「レオ、母さんの膝でもいいのよ?」 「張り合わなくてもいいよ、クリスの面倒見ててよお母さん……」 馬車には、僕とクリス、母さんとマリアさんが乗っている。それともちろん、馬車を引く人――御者だ。臨時の雇い人ではあるが、ルーデンドルフの息がかかった人であるため信用には足る。 それでもさすがに他人様に聞かれるのは恥ずかしいし、しようとは思わない。一度マリアさんに甘えてから、接触が過剰になってきたような気がしないでもない。 「遠慮なさらずとも」 「遠慮じゃないから」 そんな攻防を繰り広げること二時間。先に折れたのはマリアさんだった。スヤスヤと健やかな息を立てて寝始めた……僕の、膝の上で。 はあ、と溜め息一つ吐き、そのサラサラな銀髪に手を添える。普通にしていれば凄く可愛くて綺麗なのにな、と思ってしまう。アレも一種の愛情表現だと思えば――うん、 まあ、悪い気は、しない、かな。 「これは孫の顔を見る日も近いかしら」 「たかが四歳児にそのツッコミはどうかと思うよ」 僕の母さんがこんなに下世話なわけがない。 全然そんなことなかった。どちらかと言えば下世話だった。
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