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「……とりあえずお母さん、行ってくるね」
とても微笑ましい視線を向けてくる母さんから逃げるようにして、マリアさんの手を取り宿を出た。政権のお膝元ということもあって、ローエンハイムの王都はかなり賑わっている。趣こそ違えど、まるで東京みたいである。
「はぐれるといけないから、手はこのままでいい?」
「レオ様に握っていただいたこの手、わたし一生洗いません!」
「不衛生だから洗ってくれ」
アイドルの握手会に来たファンみたいなセリフ吐くなよ。僕はアイドルじゃないよ。
とにかく、マリアさんはセクハラ云々言う人じゃないようなのでこのままで行くことにする。目的地は既に教えてもらっているので、今更人に聞くようなことにはならない。
「あっ」
ドン、とマリアさんが誰かにぶつかった。後ろに引っ張られる形で僕にも衝撃が伝わる。
「あ?おいおいねーちゃん、どうしてくれんだ?俺の肩が外れちまったじゃねえか」
うわ何だこのテンプレートなチンピラは。
「い、いえ、私は、その」
これはいけない、マリアさんが柄の悪い男に絡まれてテンパっている。まあ明らかに向こうから当たってきてたし、どう言ったものか迷ったのもあるのだろうけど。
「治療費、払ってもらおうか」
「今、持ち合わせがなくて……」
「別に身体で払ってくれてもいいんだぜ?」
どうせ穏便に済ませるつもりはないんだろうなと見ていたら案の定であったので、ここは僕が引き受けよう。こういう時のための戦闘力である。
「ちょっと失礼」
「何だこのガキは?」
「この人は僕の従者でね。従者の不始末は主人の不始末だ。彼女の代わりに僕が謝ろう、すまなかった。治療費も払うからここは引いてくれないだろうか」
「ああ?ガキはお呼びじゃないんだよ」
「ふむ、僕の言ったことが理解できなかったのだろうか。なら分かりやすく言おう。彼女には一切手を出すな。それでも聞かないというのであれば、然る処置を施すことになるが」
「然る処置って何だよ!お父様にでもお願いするか?いいぜ、やってみろよゴボアッ!?」
「こういうことだが?あ、これは彼女にわざとぶつかった分だ。然る処置が必要ならばお望み通り何発でも殴ってやるが?」
もちろん鉄拳制裁である。悪には屈しないのだ。
「クソッ、何だってんだ!」
ピューっと、悪漢は脱兎の如く逃げ出した。悪は滅びたのである。撲滅なのだ。
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