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例えはアレだけど、まあ間違ってはいないと思う。鬼人族の場合、その価値は戦闘力に見出すべきであり、この子はその戦闘力が諸事情により皆無であるわけだから、商品としての価値は、怪我をした一般人と同じわけである。
「……お手上げですね、銀貨三十枚でどうでしょうか?」
「銀貨十枚」
ぼったくろうとしたのがバレて下手に出たのをいいことに、更に値切り交渉をする。
「……銀貨二十枚で。これ以上は私たちの沽券にも関わりますので」
「いいよ、それで手打ちだ」
ドアインザフェイスである。こうして僕は、傷付いた鬼人族の少女――カレンを手に入れるのであった。
「レオ様、本当によろしかったのですか?」
マリアが、僕に背負われているカレンを見て言う。彼女の懸念も分からないでもない。まだ性的興奮を覚えない年齢であるから性奴隷として扱うのではない、かといって何かができるかと言われれば満足に動けないから何もできない。
どうしてそんな彼女を買ったのか、ということだろう。
「実はね、アテがあるんだよ」
「アテ、ですか?」
「詳しいことは、宿に着いてからってことで」
歩くこと十数分、宿に着いた僕の背に隠れるカレンを見た母さんは少しだけ目をぴくりと動かした。
「おかえりなさい、レオ」
「ただいま、お母さん。じゃ、早速始めよっか」
そう言って、こっそり持ってきた治癒魔法の魔導書を取り出す。魔導書、というのは、自転車の補助輪みたいなものである。魔法使いの杖代わりに使えるものであるが、慣れたら使わない方がスムーズに魔法を使いこなせる、というわけだ。
さすがにまだ最上級の治癒魔法を補助なしで使うのは無理なので、魔導書に頼った次第である。
「『エクスヒール』」
カレンに手を翳して、言の葉を紡ぐ。ふわりとした輝きが彼女を包んだかと思えば、次の瞬間には傷一つない五体満足のカレンの姿があった。
唖然としてる母さんとマリアはとりあえず放置。クリスは無邪気にキャッキャと笑うだけだ。
「……身体、が」
「不自由はない?」
カレンは一通り身体を動かすと、少し驚いたのちに満足した様子で僕を見た。
「問題ない、です……ご主人様」
「じゃあ改めて自己紹介をしようか。僕はレオンハルト・ルーデンドルフ。こっちが妹のクリスティーネ。母のイーラと侍女のマリア。好きに呼んでくれていいよ」
「畏まりました、ご主人様」
ご主人様呼びにするらしい。
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