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「さてカレン。君には僕の目や耳になってほしいんだ」
聞けば年は僕と同じだと言う。できるだけ分かりやすく伝えるつもりが、何故か小説チックな表現になってしまった。
「つまり諜報ですか?」
「難しい言葉を知ってるなあ……」
「鬼人族は脳が早熟と言われていますから」
僕も人のことは言えないけど、これ違和感しかないね。凄く同族のかほりがしますよ?
「やってくれるかい?」
「私の命はご主人様に助けられたも同然ですから、この命はご主人様のために使わせていただきます」
ヤバい、重い。別に『エクスヒール』にそんな大層な価値はないと思うんだけどなあ。犬に噛まれたと思う……とでも言えばいいのだろうか。意味合い的には逆だけど。机から落ちた消しゴムを拾ってもらう……いや、こっちじゃ通じないか。
「そうは言いますがご主人様。『エクスヒール』を使えるのはごく一部の司祭のみにございます」
「そこはほら、僕ちょっと魔法が得意みたいだからさ」
「ちょっとの域を過ぎているかと思われますが……」
細かいことは気にしない気にしない。
「さすがに『エクスヒール』が使えるとは思わなかったわ……」
「さすがレオ様です!」
復活した母さんとマリアさんがそう述べた。うむ、どうやら割と常識を逸脱した行為だったようだ。これからは控えよう。
「魔導書があれば大抵の最上級魔法は使えるんだけどね」
「レオ、悪いことは言わないから秘密にしておきなさい」
「変な人に目付けられたら堪ったものじゃないからね、そうするよ」
「さすがレオ様です!」
「とりあえずそう言っとけばいいとか思ってるんでしょマリアさん」
随分と雑な反応だなあ。別に褒められるためにやってるわけじゃないからいいんだけど、ぞんざいな対応をされると存外傷付くものだ。
「諜報はいいけど、表向きはレオ専属の侍女にした方がよさそうね」
「それもそっか。マリアさん、そっちの教育は任せた」
「はい、レオ様!任されました!」
ひとまず今後の方針が決まったところで、カレンを一瞥。傷や痣こそなくなったものの、檻暮らしをしていれば清潔ではいられない。艶やかだったであろうショートの黒髪はボサボサだし、白かったであろう肌もところどころ汚れが付着している。
「まずは、お風呂に入ろっか」
思えば、この一言がいけなかったのだと。
「どうしてこうなった」
僕は独りごちた。
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