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「あ、レオン君」
黒髪おかっぱの少女ペトラだ。四年前ほど内気でもなく、今では光り輝く貴族令嬢だ。彼女は今、黄色のドレスを身に纏って、年相応におめかししていた。
「こんにちは、ペトラちゃん。今日も可愛いね、そのドレス似合ってるよ」
これではまるでジゴロみたいだが、こう言うとペトラは決まって嬉しそうに頬を赤くするし、何より本心だから仕方ない。
「あ、ありがとう。レオン君も、その……カッコいいよ、はうう……」
もう無理恥ずかしいと言わんばかりに顔を覆ってしまう。恥ずかしいなら言わなきゃいいのに思う反面、恥ずかしくてもそう言ってくれているのだと思うと嬉しくもある。
が、そのポーズは頂けない。これはこれで可愛いけど、それじゃ満足できない。
「ペトラちゃんの可愛いお顔、よく見せて?」
顔を覆う手を割れ物を扱うように優しく取り、言葉をかける。
「レオ様、その手練手管はまるでナンパ師のそれですよ……」
たまたま通りかかったマリアさんが僕を諌める。むう、失敬な。僕はペトラとのスキンシップを楽しみたいだけなのに。
「あら、レオンハルト様じゃありませんこと」
ここ数年で最早聞き慣れた声だ。僕の名前を呼んだのは金髪縦ロールの少女、レオノーラさん。僕より二つ年上らしい。彼女はルーデンドルフ縁の家の者ではなく、同じ辺境伯に仕える貴族のよしみで仲良くなった。
「こんにちは、レオノーラさん。赤いドレスが良く似合ってるね」
彼女が着ているのは、真紅のベアドレス。肩を剥き出しにしたデザインだ。お金の使い方も豪快だということで、僕のイメージは専らおませさんだった。
「ふふ、ありがとうございますわ。レオンハルト様も凛々しくて素敵ですわよ」
「うん、ありがとう。ところでハイディさんは?」
隣の領地――レオノーラさんの両親ヴェルディ伯爵が経営する地に邸宅を構える貴族で、レオノーラさんとは幼馴染の関係である少女の姿が見当たらない。いつもは一緒にいるのになあ。
「あの方でしたら、すぐにでもいらっしゃると思いますわよ」
「本当?じゃあ待とうかな――」
「ご機嫌麗しゅう、レオン」
「おっと、これはご機嫌いかがですか、ハイディさん」
紫紺のドレスに銀髪のショートカットがよく映える。やや無口でおっとりした性格の彼女は、クーリエ家の一人娘だ。ご両親は随分と可愛がっていると聞いたことがある。これだけ可愛ければ無理もない。
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