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「その話はまた今度な」
「もう、お兄様はいつもそう言ってはぐらかすではありませんか!」
そりゃはぐらかしもするだろう。目下、これが一番頭が痛くなる問題だった。
使用人の方々はそれぞれの仕事がある。それはナタリーさんだって同じだし、カレンも同じだ。彼女の仕事とは表向きは僕専属の侍女であるが、その実諜報員として裏で暗躍している。
鬼人族としての高い身体スペックはしっかりと受け継がれており、その身のこなしは相当に達人級だ。純粋な体術だけじゃ、僕もカレンには敵わない。
ちなみにそんな彼女は今、普通に侍女として働いている。ただし、そのメイド服の裏には暗器を忍ばせて、ではあるが。
この年になれば所謂許嫁の一人や二人、あてがわれてもおかしくはない。いや二人はないか。つまりどういうことかと言えば、こういう社交場ではそういったやり取りが頻繁に行われる。
「レオン君、ウチの娘はどうかね?君も気に入ると思うのだが」
「いやいや、貴方のところの娘はもう成人でしょう。それより私の娘はいかがです?年も同じで、気を遣わなくていいと思いますよ」
こういう具合にだ。この辺りではルーデンドルフ家が一番格式が高い。傍流やその腰巾着の貴族たちは子供同士の婚姻関係によって地位を確立していくのである。
無論、政略結婚自体を否定するつもりはないが、僕自身としてはそんな扱いを受けるつもりはない。母さんはその点に関して放任してくれているので気が楽である。
自分の娘を勧めてくるおじさんたちを適当にあしらいながら食べ物を口に運んでいく。 このまま恙なく終わるかと思ったその時だった。
窓ガラスが割れ、何者かが中へ侵入してくる。
「カレン!」
「どうやら警戒していたところとは違う勢力のようですね、申し訳ありません」
「いや、これは僕の失態だ。とりあえずこの場を収めようか」
「仰せのままに、ご主人様」
侵入者の数は全部で八。それぞれがそこそこの手練れだと見える。こんな辺境の地でこれだけの数を揃えるのはなかなか難しいだろう。
僕が五人、カレンが三人を相手取る。残念ながらパーティーの出席者のうち、この事態をどうにかできるのは精神状態と戦闘力を考慮した結果ゼロのようだ。大半は恐慌状態だし、落ち着いている人はパッと見でクリスと母さんくらいなものである。
「『エリアスタン』」
正直、守るべき人たちとは言え、下手に暴れられても面倒だ。
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