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そんなわけで、僕とクリス、母さん、マリアさん、カレンとで、これまた王都に来ていた。いつもこのメンバーだな。
「面を上げい」
というか王城に来ていた。顔を上げろと言われたのでその通りにすると、目の前には威厳たっぷりのおじさん――ローエンハイム国王様がいらっしゃった。
僕の隣にはクリスと母さん。マリアさんとカレンは別室で待機中だ。鷹の目はつけてあるので、万が一が起きれば今すぐにでも駆けつける所存である。
「そなたらを呼んだのは、此度の件に関して報酬を与えるためである」
知ってた。
「聞けばルーデンドルフ家は女系だそうだな」
「はい、そうでございます」
と母さん。代替わりはしていないので、現当主である母さんが受け答えするのが筋だろう。
「そして、此度の件で、辺境伯のポストが空いてしまった」
……何故だか、唐突に嫌な予感がしてきた。そもそも、母さんだけ呼び出せば済む話だっただろうに、僕やクリスまで召集を食らう理由が分からなかった、のだが。
「王族から新たに輩出してもよかったのだが――どうせならと、レオンハルト・ルーデンドルフに辺境伯の爵位を授けることにした」
やっぱり!面倒くさい予感がビンビンしたんだよ!入社三年目で上に目をつけられて伸び代のない部門の部長に任命されるとかいう実質的な左遷を彷彿とさせるアレだよ!
「……一つだけ、お聞きしたいことがございます」
とは言え、これは勅命であり、一貴族である僕に逆らえるはずもなく。
「何だ、申してみよ」
「どうして自分に白羽の矢が立ったのでしょうか。まだ成人すらしていない身で、領地の経営などできかねると思いますが」
「ふむ。貴公は自領で土木事業を発展させたと聞いているが?他にも、元々名産品であった蜂蜜に手を加えて、蜂蜜酒(ミード)など生産が難しい商品を開発して売り出しているそうじゃないか」
僕が当主の嫡男であることをいいことに自領で好き放題経済を発展させてるのバレてら。さすが王家。その情報収集力には恐れ入った。
普通に考えればまだ子供である僕ではなく母さんが行ったのではないかと思うところを、僕だと断定できるのだから誤魔化しようもない。
心の裡で一つ溜め息を吐く。
「……そこまでご存知ならば、私からお訊ねすることは何もありません。このレオンハルト・ルーデンドルフ、陛下の勅命を全うしたく思います」
で、そうは問屋が卸さないのである。
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