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前者はともかく、後者は間違いなく縁がなかったので使ったことはないが。というか、それで本当に先っちょだけで終わる男なんているのだろうか。
せっかくなので背中がむず痒くなるのを我慢して、王都で巨人殺しの話がどのように広まっているのか聞いてみた。
カサンドラ曰く、巨大な大剣で一振りの下に両断したとか、最上級魔法で丸焦げにしたとか、とにかくやたらと誇張されているようだった。得てして噂とはそういうものだろう。現実には、一人の子供が女性を守るために二時間も三時間も延々と死に物狂いでちくちくダメージを与えていただけなのだが。
泥臭くて鈍臭いだけの、格好悪い死闘である。まあそれでも巨大な敵を倒して女性を守り抜いたという事実は、大きな自信となっていた。
「じゃあ、また」
「はい、お待ちしておりますわ」
優雅に礼をするカサンドラを見納めながら、王城を後にする。正直面倒事を押し付けられた感が強いので忌々しく見えてしまうが、不平を漏らしても何かが変わるわけではないと思い直して平常心を取り戻す。
「お兄様の実力を鑑みれば当然の身分だと思います。むしろ王様でもいいくらいです」
「あの場でそんなことを言い出さなくて本当に良かったあ!」
「クリスは空気が読める子ですから」
身分を弁えるの間違いだ、なんて指摘はできないけど物凄くしたい。
「しかしお兄様の隣を横から掠め取られたのは大きな損害ですね……いやまだ今なら実の兄妹でラブロマンスという禁断の甘い蜜を餌に関係を強要するワンチャンありますか……」
なにやらボソボソと呟いているが最後の方が不穏過ぎだし淑女が行方不明だし何でそんなスラング知ってるのか分からないし、でもツッコんだらドツボな気がするので僕は口を固く閉ざす。
淑女がワンチャンとか言うなよ。
途中で合流したマリアさんとカレンには、宿に戻ってから話をした。
「さすがレオ様です!」
「もうそれしか言う気ないでしょ」
壊れたラジオのように同じセリフを繰り返すマリアさん。最近は専らギャグ要員である。いいのかそれで。
「私の居場所はご主人様の御許にございますので」
「そうだね、向こうに行ってもよろしく頼むよ。カレン」
「あの……私はどうなるのでしょうか?」
不安げに僕を見るマリアさん。
「僕としては、来てくれると嬉しいけど」
新天地に一人で放り込まれるのは精神的に滅入ると思う。
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