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褐色お姉さんことヘルガ姉が声を荒げたので、少しびっくりしてしまった。あまり大きな声を出して周りに聞かれても、まあ最終的には知れ渡るだろうからいいけど、情報はゆっくりと浸透するに限る。拙速が尊ばれるのは非常時だけだ。
「本当、なんだね?」
「うん、本当だよ」
「……そっか、アタシも潮時かなあ」
そういえばであるが今年でヘルガ姉は二十三歳になる、はず。前にギルドで男の人にからかわれていたのを思い出す。
ちなみにその男の人は、ヘルガ姉に禁句――即ち、行き遅れと言った瞬間、半殺しにされていた。ヘルガ姉を怒らせないようにしようと誓ったほどである。彼女も今ではすっかり稼ぎ頭だ。
現代のというか前世の日本が晩婚なだけであって、早婚な国自体は少なくない。たまたまこの世界もそうだったというだけで、ヘルガ姉はたまたま運がなかったというだけだ。いや、彼女の場合はちょっと違うか。
「結婚、できっかなあ」
暗に行き遅れた年増だしなあと愚痴をこぼしているが、あまり気にしなくてもいいのではないだろうか。男の人に言い寄られているのを何度も見かけたことがあるし。
「でも、何で今まで誰かと結婚……とまではいかなくても、付き合ったりしなかったの?」
それが少し疑問なのである。自分より強くて稼げる男じゃないとダメ、とか言い出すなら確かに条件に見合うような人はいなくなるだろうけど、ヘルガ姉はそういうタイプでもない。こう言うと本人は否定するだろうけど、頭の中結構乙女チックだし。
「……アタシも、バカだったってことさ」
自嘲気味に、そう呟いた。
「バカって?」
「同年代の友人がさ、楽しそうに彼氏の話をするんだよ。付き合えただの、デートが何だの、プレゼントがどうだのって。バカみてえって思ってたよ、恋愛バカだって。……まさか、自分がそうなるなんてな」
「好きな人、できたの?」
「ああできたよ、できちまったさ。しかも、そいつが相当ヤバいんだ……いや、ヤバいのはアタシ、か」
「へえ、ちょっと気になるなあ。あのハルバード担いだ人?ヘルガ姉案外王子様っぽい顔好きだし、両手剣のあの人?それとも――」
「……お前だよ」
「へ?」
ヘルガ姉は、ちょっと気まずくて、気恥ずかしくて、不貞腐れて、自棄になったような口調でそう言った。
「だから、お前だっつってんだろ、レオン」
聞かないでほしい、そう言っている気がした。
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